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ネットワーク外部性を考慮した両面市場におけるプラットフォームの戦略

岩崎 一眞

研究背景・先行研究

 両面市場とは,属性が異なる2 つのグループが,プラットフォームを介することで取引を行う市場である.売り手と買い手が直接取引する一面市場とは異なり,両面市場では, プラットフォームを経由した上で,2つのグループ同士で相互作用が発生している.

 この相互作用により,ある製品やサービスを利用するユーザーの数が増加するほど,その製品やサービス,もしくはそれらを補完する製品やサービスの価値が高まることがある.この効果をネットワーク外部性(ネットワーク効果)と呼ぶ[1].このネットワーク外部性は,直接ネットワーク外部性と間接ネットワーク外部性の2種類に分類される.

 直接ネットワーク外部性とは,1つのグループについて,そのグループに属するユーザーの数の変化に伴い,それらのユーザーが得られる効用が変化する効果を示す.例として,電話を利用するユーザーの数が増加するほど,電話の相手も増加するため,ユーザーの効用も合わせて増加する例が挙げられる.得られる効用がグループに属するエージェントの数に比例する線形モデル[2],[3],[4],[5],[6] が存在する一方で,時間経過による陳腐化過程等を考慮した非線形モデル[7] も存在する.

 間接ネットワーク外部性とは,ある1つのグループに属するユーザーの数の変化に伴い,もう一方のグループに属するユーザーが得られる効用が変化する効果を示す.例として,スマートフォンのアプリ市場について,アプリ開発会社数の増加によりアプリの数が増加するほど,もう一方のグループのスマートフォンユーザーが得られる効用も増加する例が挙げられる.これについても,直接的なネットワーク外部性と同様に,線形モデル[8]と非線形モデル[9]が存在する.

 また,直接と間接とは別に,ネットワーク外部性は,正のネットワーク外部性と負のネットワーク外部性の2つに分類される.正のネットワーク外部性は,エージェントの数が増加するほど,そのエージェント,もしくはもう一方のグループに属するエージェントの効用が増加する効果を示す.上記で挙げた直接と間接ネットワーク外部性の例は,正のネットワーク外部性の例となる.一方で,負のネットワーク外部性は,エージェントの数が増加するほど,そのエージェント,もしくはもう一方のグループに属するエージェントの効用が減少する効果を示す.

 負の直接ネットワーク外部性の例としては, Uber Taxiのような配車サービスのモデルが挙げられる[10].サービスを提供するドライバーが増加するほど,競合相手が増えるため,ドライバーの効用が減少し,負の直接ネットワーク外部性が働くようになる.

 一方で,負の間接ネットワーク外部性の例としては,感染症に対するワクチン接種のモデルが挙げられる[11].ワクチン接種を受ける人の数が増加するほど,感染症に対する免疫力が増加し,逆に,ワクチンの価値が減少してしまう.よって,ワクチン摂取の人の数が増加するほど,それに対するワクチンを供給する人の効用が減少し,負の間接ネットワーク外部性が働く.

 負のネットワーク外部性に関する研究では,ユーザーの効用を表す式にユーザーの総数を表すパラメータに負の係数をかけた項を導入することで,負のネットワーク外部性を表すことがある[12].しかし,負の係数をかけた項を用いずに負のネットワーク外部性を表す研究もいくつか存在する.

 まず,Asvanundらは,P2Pを利用したネットサービスにおけるユーザーの効用を表すモデルについて,パラメータの勾配の正負でネットワーク外部性の正負を表している[13].つまり,パラメータの勾配が正であれば正のネットワーク外部性を表し,勾配が負であれば負のネットワーク外部生を表す.また,Kurucuらは,マッチングサービスにおける独占的プラットフォームの市場構造と価格戦略のモデルについて,ユーザーの利得の式を設定する際に,一方のグループ全体で得られる利得の総数をそのグループに属するユーザー数で割る項を導入することで,負の直接ネットワーク外部性を表している[14].

 プラットフォームは,自身の効用の最大化を目的にしたとき,ネットワーク外部性の特徴に注目しながら,2つのグループに課すコストや取引される商品表示等を制御する必要がある.プラットフォームの戦略を考察するための両面市場の定量的なモデルは数多く存在する.まず,プラットフォームが市場を独占する独占市場のモデルの研究例を挙げる.

 本間らは,J.H.Rohlfsが一面市場向けに提案した定量的普及モデル[2] を両面市場向けに拡張することで,両面市場における定量的普及モデル[7]を提案した.このモデルにより,各々のグループに属するユーザーのサービス加入に関するミクロ行動モデルから,各々のグループにおけるサービス普及率に関するマクロモデルが導かれた.

 スマホアプリに関する市場のモデルでは,海野らが提案したモデルが存在する[15].この研究では,スマートフォンユーザーとスマートフォンアプリ開発会社が,プラットフォームとなるGoogleやAppStore等のアプリストアを介して取引を行う市場に注目している.このモデルにより,プラットフォームの自身の売上を最大化するための価格やユーザーへのサポートに関する最適な戦略が提案された.また,スマホアプリに関する市場とは別に,オンライン上の通販サイトやフリーマーケットアプリ(例:Amazon,メルカリ)がプラットフォームとなる市場について,社会全体の利得,もしくはプラットフォームの利得の最大化を目的に,プラットフォーム側の最適化な商品表示を提案する研究も存在する [16].

 プラットフォームの独占市場だけではなく,複数のプラットフォームによる寡占市場におけるプラットフォーム間の競争に関する研究もいくつか存在する.J.Rochet らは,クレジットカード市場のモデルを元に,プラットフォームの互換性やサービスのユーザーがプラットフォームのマルチホーミングを行う際のコスト等が,プラットフォームの各グループへの価格配分にどのような影響を及ぼすかを調べた[17].

 H.Dietlらは,Hotellingモデルを基に,2種類のプラットフォームの競争を表すモデルを設定した[18].Hotellingモデルとは,ある長さの線分を都市とし,企業が各々の効用の最大化を目的に線分上に立地するモデルであり,H.Hotellingにより提案された[19].このモデルでは,線分の両端に異なる2種のプラットフォームを配置する一方で,サービスの利用者はこの線分上に一様に配置され,自身の位置とプラットフォームとの距離によって,各々のプラットフォームから得る効用が決定される.

研究目的

 世の中には無料で利用できるサービスが多く存在する.しかし,無料でサービスを提供するだけではプラットフォームの利益にならないため,広告主から広告を掲載する代わりに広告料を徴収することで,プラットフォームは収益を上げている.その一方で,利用者に有料コンテンツを提供することで広告の表示機会を減らし,利用者からの利用料で収益を上げているサービスも存在する.しかし,広告の表示機会の減少により,広告の需要は低下し,プラットフォームに広告を提供する広告主の数も減少するため,広告主から得られる利益も減少する.そのため,利用者に有料もしくは無料でサービスを提供する一方で,広告主から広告料を徴収する市場において,各グループの取引の仲介者となるプラットフォームは,各々か ら得られる利益のバランスを考慮した上で,利用者と広告主にどのようなインセンティブを与えるかが重要となる.

 本研究では,利用者と広告主による両面市場のモデルを設定し,プラットフォームの利益が最大となる価格設定について考察する.なお,対象とする市場については,手始めに簡易的なモデルから設定するものとする.そのため,利用者はサービスの利用料を支払いつつ広告を視聴し,広告主は広告と広告料をプラットフォームに提供するものと仮定する.この仮定を元に市場のモデルを設定し,プラットフォームの最適な戦略について考察する.

対象とする市場とネットワーク外部性

 まず,対象とする市場のモデルを設定する.本研究では,サービス利用者と広告主の2つのグループがプラットフォームを介することで取引を行い,なおかつ,サービス利用者がコンテンツを提供する市場に注目する.具体的な例としては,youtubeやtwitter等が挙げられる.サービス利用者はプラットフォームに利用料を支払い,なおかつ広告を視聴するものと仮定する.一方で,広告主は自身の広告をプラットフォーム上に掲載する代わりに,プラットフォームに広告料を支払うものと仮定する.なお,各広告の表示の機会は常に均等に割り振られ,全ての広告の表示回数は同一であるとする.また,滞在利用者とはサービスを利用する可能性のある利用者達のグループを指しており,実際にサービスを利用する利用者のグループは滞在利用者のグループに包含されている.広告主に関しても同様に,実際にプラットフォームに広告を提供する広告主のグループは,プラットフォームに広告を提供する可能性のある広告主達で構成された滞在利用者のグループに包含されている.このとき,対象とする市場は図1のように設定される.

 そして,この市場におけるネットワーク外部性の働きについて仮定する.まず,直接ネットワーク外部性について考える.利用者のグループでは,利用者が増えるほどコンテンツの提供者が増加し,利用者が得る効用も増加するため,利用者のグループには正の直接ネットワーク外部性が働くと仮定する.また,広告主のグループでは,広告主が増えても自身の広告表示の回数に影響せず,広告主が得る効用にも影響を及ぼさないため,広告主には直接ネットワーク外部性が働かないと仮定する.

 次に,間接ネットワーク外部性について考える.利用者から広告主については,利用者が増えるほど広告表示の回数が増加し,広告主が得る効用も増加するため,利用者のグループから広告主のグループには正の間接ネットワーク外部性が働くと仮定する.また,広告主から利用者については,広告主が増えるほど広告表示の回数が増加し,利用者の効用も減少するため,広告主のグループから利用者のグループには負の間接ネットワーク外部性が働くと仮定する.このとき,本研究の市場では,図2のようなネットワーク外部性が発生すると仮定される.

結論・今後の展望

 利用者はサービスの利用料を支払いつつ広告を視聴し,広告主は広告と広告料をプラットフォームに提供する市場において,利用者と広告主の仲介者となるプラットフォームにとっ て,広告料を高くすることで広告主を追い出しつつ利用者のみによる市場を形成することが最適な戦略となる.

 しかし,最適な戦略における利用者の加入率はパラメータの値に関係なく一定の値を取るため,滞在利用者の人数が変化しない場合,利用者のサービス加入者数も常に一定の値を取る.市場の形式によっては,利用者の人数がより重要となる企業も存在する.例えば,利用者のサービスを利用する際の情報から,プラットフォームが利用者のトレンド等のデータを第三者に提供し,その見返りとして第三者から料金を頂くケースが考えられる.このとき,利用者の人数は非常に重要となる.しかし,利用者はサービスの利用料を支払いつつ広告を視聴し,広告主は広告と広告料をプラットフォームに提供する市場では,利用者のサービス加入者数の人数は常に一定となる.そのため,市場の形式によっては,一部の利用者もしくは全体の利用者に無料でサービスを提供することで,より多くの利用者がサービスに加入させるようにする必要があると考察される.また,このとき,利用者のサービス加入者数だけでなく,広告主も市場に参入させる方がプラットフォームの最適な戦略となる可能性がある.

参考文献

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2021年 2月25日