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物流における電気自動車のV2Vエネルギー交換を利用した配送システムの開発

君塚 裕太

研究背景

 今後、世界的に電気自動車(EV:electric vehicle)の普及が見込まれている。EVは日中は自動車として使用し,夜の使用していない時間帯は蓄電池として安い充電単価で充電するという運用方法が一般的に考えられている.電気自動車は自動車としての「ヒト」や「モノ」を運ぶ機能に加えて、電力系統や電気自動車同士、家やビルなどさまざまなものと繋がってエネルギーのやり取りをすることができる。EVの普及により、そのようなガソリン車にはない特徴を活かした社会システムが今後予想される.

 例として,EVを用いたカーシェアリングにおいて太陽光発電を取り入れ,太陽光発電の利用を促すことを目指した研究[1]や.今後町中にあふれるEVの蓄電池を活用し,適切なタイミングで充電と放電の制御を行うことで,発電量が不安定な再生可能エネルギーの利用を推進すようなエネルギーマネジメントシステム[2]が考えられている.

 現状考えられているEVを利用したシステムはEVのモビリティとしての機能もしくは蓄電池としての機能といった一方の機能のみに着目したシステムがほとんどである.そこで,本研究では,EVのヒトやモノを乗せるモビリティとしての機能と車載の蓄電池を用いたエネルギーをやり取りする機能を融合させたような社会のシステムを提案し,分析することを目指す.

研究目的

 本研究では,ヒトやモノを乗せるモビリティとしての機能と車載の蓄電池を用いたエネルギーをやり取りする機能を融合させたような社会のシステムを提案しと分析を行う.具体的には,まず,EVを用いた物流における荷物交換とV2Vによるエネルギー交換を取り入れたシステムを提案し,そのシステムが機能するような簡単なケースで数値シミュレーションを行い,結果を定量的,定性的に分析し,システムの有効性や特性について考察する.

 V2Vとはvehicle to vehicle の略で自動車同士ということを意味し,EVにはこのV2Vでエネルギーをやり取りする機能が搭載されることが見込まれており,様々な研究[3][4]が行われている.今回のシステムではこのV2Vによるエネルギー交換に着目する.

提案システムの概要

 本研究で提案するシステムは,物流の配送過程において配送センターから配送センターへの荷物の配送の際に,特定の条件を満たした時に限りEV同士をマッチングさせ,EV同士が荷物の交換とエネルギーの交換を行うことで物流をより効率化させるものである.

                        システムの概要図

問題設定

 図のようなネットワークを配送エリアに見立てて,問題を考える.ある一日を考え,その1日におけるオペレーションを想定する.オペレーションはこのネットワークを1日で最大1往復することを考慮しており,ネットワークの形状もそのことを踏まえて設計している.C1,C2,C3,C4が配送センターを表し,Mが荷物交換,エネルギー交換を行う合流地点を表す.

 電力の充電は配送センターでの充電ステーションからの充電もしくはEV同士による電力の融通によってのみ行われる.充電ステーションにおける電力の充電単価は,昼が高く,夜が安いとする.EV同士の電力の融通の際には,電力を融通してもらう側がインセンティブとしてゆうずうしてもらう電力量に応じて金銭を支払う.このときの充電単価は充電ステーションにおける昼の充電単価と夜の充電単価の中間の値とする.

 今回の問題設定では,V1とV2大小2台のEVトラックが存在する.V1の蓄電池の最大容量は小さく,V2の蓄電池の最大容量は大きいとする.V1とV2は蓄電池の最大容量に加え,荷物を積み込む配送センター,運ぶ荷物の種類と個数のみ異なる.

 1日の初めに両EVが夜の最も安い時間帯に蓄電池の最大容量まで蓄電池が充電されている状況からオペレーションを始める.オペレーションの時間を6時から夕方の18時の間までとし,6時から夕方の18時の間に積み込まれた荷物を全て配送し終わるまで,オペレーションを行う.

           ネットワーク図

数値シミュレーション結果

 パラメータを[5][6]を参考に設定し,数値シミュレーションを行った結果以下のグラフと表のような結果が得られた.数値シミュレーションから提案システムがない状況よりも提案システムがある状況の方がオペレーション全体で運ぶことができる荷物の数が増加している.そして,運ぶことができる荷物量の増加に伴い,1日のオペレーションによる収益が増加していることがわかる.また単位時間あたりの利益が増加していることから,荷物交換とV2Vによるエネルギー交換により,オペレーション全体の効率が向上していることが読み取れる.

            図1:1日のオペレーションにおけるV1のSoCの変化を表すグラフ

            図2:1日のオペレーションにおけるV2のSoCの変化を表すグラフ

                   表:数値シミュレーション結果

今後の課題

 (1)EVの台数を増やした場合のEV同士のマッチングメカニズムについての検討が考えられる.今回はEVが2台だったため考慮しなかったが,EVの台数が増えた場合はどのようにEV同士の組み合わせを決定するか決める必要がある.

 (2)今回の数値シミュレーションでは,荷物の交換をあらかじめ決められたルールに従って行った.今後は,荷物交換の際にインセンティブを設計することで,提案システムの有効性を高めるような交換方法を検討する必要がある.

 (3)電力をV2Vで融通する際の充電単価を今回の問題設定では,昼間の電力単価と夜間の充電単価の中間の固定値として設定した.今後は,固定値ではなく各EVの蓄電残量値や蓄電池に貯蔵されている電力の充電単価を踏まえて決定する方法について検討することが必要であると考えられる.

参考文献

[1] 川島明彦, 稲垣伸吉, 鈴木達也. EV シェアリングが担うエネルギー管理. 計測と制御, 第 57 巻, pp179-184, 2018.

[2] D. Meer, G. R. C. Mouli, G. M. E. Mouli, L. R. Elizondo, and P. Bauer. Energy management system with PV power forecast to optimally charge EVs at the workplace. IEEE Transactions on Industrial Informatics, Vol. 14, No. 1, pp. 311–320, 2018.

[3] T. J. C. Sousa, V. Monteiro, J. C. A. Fernandes, C. Couto, A. N. Melendez, and J. L. Afonso. New perspectives for Vehicle-to-Vehicle (V2V) power transfer. In IECON 2018 - 44th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society, pp. 5183–5188, 2018.

[4] M. Wang, M. Ismail, R. Zhang, X. Shen, E. Serpedin, and K. Qaraqe. Spatio-temporal coordinated V2V energy swapping strategy for mobile PEVs.IEEE Transactions on Smart Grid, Vol. 9, No. 3, pp. 1566–1579, 2018.

[5] 夜トクプラン(夜間・深夜の電気使用量が多い方向け)|電気料金プラン|東京電力エナジーパートナー株式会社. https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/yorutoku/index-j.html.

[6] 日産:リーフ [ LEAF ] — 航続距離・充電 — 航続距離・バッテリー. https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/leaf/charge/battery.html#.

2022年 2月25日