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one-way型カーシェアシステムにおける需要不均衡低減のための料金設定

手島駿治

研究背景

 複数人で車を所有・使用する,カーシェアと呼ばれるサービスが一般的になってきている. 基本的な形態は,カーシェア運営企業が街中のコインパーキングやコンビニに併設されたステーションと呼ばれる駐車スペースに車を用意しておき, それをあらかじめめ登録された会員(ユーザ) が自由な時間に借り出して使用し,返却するというものである. なお本論文では,ユーザが車を借りることをチェックアウト,車を返すことをチェックインと呼ぶ. 同様に車を借りるサービスとしてはレンタカーがあるが,それと比較してカーシェアは,貸出・返却の手続きが簡便である,料金体系が短時間の利用にも対応しているなどの特徴があり,手軽に利用できるようになっている.
 カーシェアシステムの多くは,round-trip 型と呼ばれる,ユーザがチェックアウトしたステーションに戻ってきてチェックインしなければならない制約がある形態となっている. それに対して,チェックアウトしたステーションとは別のステーションでチェックインするという,いわゆる「乗り捨て」を許しているone-way型と呼ばれる形態が存在する. one-way 型カーシェアシステムは,ユーザのより自由な移動を可能にするが,ユーザの好むステーションに偏りがある場合,車の数が少ないステーションと車の数が多いステーションが現れてしまう[1]. このような状況は,ユーザがカーシェアシステムを利用しうとしても,ステーションに車がないためチェックアウトできない,またステーションが車で一杯のためチェックインすることができないという状況が発生するため問題である. この利用しようとしたユーザが利用できなかったという事象は機会損失と呼ばれる. この機会損失の問題に対処する方法がこれまで多く提案されている.
 最も一般的な方法として,車の多いステーションから少ないステーションへシステム管理者が車を移動させる,つまり配車を行う方法[2] [3] [4] [5] [6] が提案されている. 文献[2] では,ユーザの待ち時間,および車の配車の回数を最小化するような車の総台数が考えられている. 文献[3] では,自動車の位置情報(GPS) に基づいて待機車を配車するアルゴリズムが提案されている. 文献[4] では,コスト効率の良い配車計画が得られるような確率的MIP(mixed-integer programming) を示している. 文献[5] では,車の多いステーションから少ないステーションへ,運転者なしで自律的に走行する車両を想定し,その移動距離を最小限にする移動ポリシーを考案している. 文献[6] では,配車回数と配車スタッフの数を最小化する方法について述べられている. 配車以外の方法としては,希望のチェックアウト・チェックインステーションが共通である複数のユーザが同じ車を使用する相乗りと, ユーザが2 人以上からなるグループならば別れて複数の車を使用する分割乗車を推奨する方法[7] [8] が提案されている.
 また、インセンティブを用いてカーシェアシステムの不均衡に対処する方法[9] [10] [11] [12] [13] が提案されている. 文献[9] においては,スタッフによる配車のコストを下げるためにインセンティブを顧客に提示する手法が提案されている. 文献[10] では,各出発地・目的地の組の割合に影響を与える料金のような影響力を用いて,ユーザの利用回数を最大にする手法が提案されている. 文献[11] では,予算の制約を考慮したインセンティブの戦略を提案している. 文献[12] では,インセンティブ戦略を示し,ごく少数のユーザしか受け入れない場合でも,システムのパフォーマンスを大幅に向上させる可能性があることが示されている. 文献[13] では,トリップをユーザ間で取引可能な枠組みを考え,社会最適配分と利用価格を明らかにしている.
 また,バイク(自転車) シェアにおいても同様な不均衡の問題が指摘されている. バイクシェアでは多くの場合one-way 型の運営となっており,トラックなどを用いた配車がカーシェアよりも容易に行うことができるという特徴がある. しかし, ユーザのチェックアウトステーション,チェックインステーションの需要を制御することによりステーション間のバランスを保つ方法[14] [15] も提案されている. 文献[14] においては,ユーザが最も利用したいステーションとは別のステーションを利用するよう提案する戦略を解析している. それによればユーザの50% が700m 以内のステーションの変更を受け入れるのであれば,ほとんどのユーザがサービスを受けられるようになることが示されている. 文献[15] では,与えられた予算の範囲で,使用ステーションを変更するユーザ数を最大化するインセンティブを決定するアルゴリズムが提案されている.
 本研究では,この不均衡の問題の低減のためのステーションの利用料金の算出手法を提案した. 利用料金は,チェックアウトステーション選択時とチェックインステーション選択時にかかる2種類を考える. ユーザの効用モデルを定義し,対象のユーザの効用と将来のユーザの効用の期待値の和が最大となるような料金を設定する. 基本的に利用料金は,チェックアウトステーションとして人気で駐車台数が少ないステーションをチェックアウトステーションとして選択する場合,およびチェックインステーションとして人気で,駐車台数が駐車可能台数に近いステーションをチェックインステーションとして選択する場合に,高額になるという特徴がある. 特に,利用料金はユーザの希望利用ステーションとその時点での各ステーションの駐車台数によって決定されるとし,その決定方法を示す.

提案手法

ユーザがステーションを利用(チェックアウトもしくはチェックイン)するときの効用を,「ステーションの利便性」,「ユーザが本来利用したいステーションからの距離」,「私的効用」の三要素により決定付けられるとして定式化する. まず主問題として,現在利用しようとしているユーザの効用と,次時刻以降に利用するユーザの効用の期待値との和を最大化する最適化問題を考える. このとき,次時刻以降に利用するユーザの利用希望のステーションは,その確率分布が既知であるとして評価する. ユーザに提示する料金を求めるため,主問題の双対問題を考える. さらに,私的効用の項を統計的に評価するため集計化を行う. これにより,効用を最大化する料金を得る.

今後の課題

提案した最適化問題が非常に大規模のため,計算時間の短縮が課題である. また,ユーザの移動時間が異なるなど複雑化への対応も課題である.

参考文献

[1] M. Barth and S. Shaheen. Shared-use vehicle systems: Framework for classifying carsharing, station cars, and combined approaches. Transportation Research Record: Journal of the Transportation Research Board, No. 1791, pp. 105–112, 2002.


[2] M. Barth and M. Todd. Simulation model performance analysis of a multiple station shared vehicle system. Transportation Research Part C: Emerging Technologies, Vol. 7, No. 4, pp. 237–259, 1999.


[3] N. Mukai and T. Watanabe. Dynamic location management for on-demand car sharing system. In International Conference on Knowledge-Based and Intelligent Information and Engineering Systems, pp. 768–774. Springer, 2005.


[4] R. Nair and E. Miller-Hooks. Fleet management for vehicle sharing operations. Transportation Science, Vol. 45, No. 4, pp. 524–540, 2011.


[5] M. Pavone, S. L. Smith, E. Frazzoli, and D. Rus. Load balancing for mobility-on-demand systems. In Robotics: Science and Systems. Los Angeles, CA, 2011.


[6] S. L. Smith, M. Pavone, M. Schwager, E. Frazzoli, and D. Rus. Rebalancing the rebalancers: Optimally routing vehicles and drivers in mobility-on-demand systems. In American Control Conference(ACC), 2013, pp. 2362–2367. IEEE, 2013.


[7] M. Barth, M. Todd, and L. Xue. User-based vehicle relocation techniques for multiple-station shared-use vehicle systems. 2004.


[8] K. Uesugi, N. Mukai, and T.Watanabe. Optimization of vehicle assignment for car sharing system. In International Conference on Knowledge-Based and Intelligent Information and Engineering Systems, pp. 1105–1111. Springer, 2007.


[9] J. Pfrommer, J. Warrington, G. Schildbach, and M. Morari. Dynamic vehicle redistribution and online price incentives in shared mobility systems. IEEE Transactions on Intelligent Transportation Systems, Vol. 15, No. 4, pp. 1567–1578, 2014.


[10] A. Waserhole and V. Jost. Pricing in vehicle sharing systems: Optimization in queuing networks with product forms. EURO Journal on Transportation and Logistics, Vol. 5, No. 3, pp. 293–320, 2016.


[11] A. Angelopoulos, D. Gavalas, C. Konstantopoulos, D. Kypriadis, and G. Pantziou. Incentivization schemes for vehicle allocation in one-way vehicle sharing systems. In 2016 IEEE International Smart Cities Conference (ISC2), pp. 1–7. IEEE, 2016.


[12] C. Fricker and N. Gast. Incentives and redistribution in homogeneous bike-sharing systems with stations of finite capacity. Euro journal on transportation and logistics, Vol. 5, No. 3, pp. 261–291,2016.


[13] Y. Hara, E. Hato, et al. A car sharing auction with temporal-spatial od connection conditions. Transportation Research Part B: Methodological, Vol. 117, No. PB, pp. 723–739, 2018.


[14] P. Aeschbach, X. Zhang, A. Georghiou, and J. Lygeros. Balancing bike sharing systems through customer cooperation-a case study on london’s barclays cycle hire. In Decision and Control (CDC), 2015 IEEE 54th Annual Conference on, pp. 4722–4727. IEEE, 2015.


[15] A. Singla, M. Santoni, G. Bartók, P. Mukerji, M. Meenen, and A. Krause. Incentivizing users for balancing bike sharing systems. In AAAI, pp. 723–729, 2015.


[16] 和田健太郎, 赤松隆. 単一ボトルネックにおける渋滞と混雑を解消する情報確率的メカニズムの設計. 土木学会論文集D, Vol. 66, pp. 160–177, 2010.


[17] 久保井悠輔, 井村順一, 早川朋久, 田中英明, 前佑樹. ロードプライシングを用いた渋滞と混雑を解消する交通最適化. 計測自動制御学会第4 回制御部門マルチシンポジウム, 3D2-4, 2017.

2019年 3月1日