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国家間における力配分ゲームの解析

今井勇樹

はじめに

 本研究では,国際政治における国の動向を資源の配分という視点から考える.資源とは国が持つ天然資源・食料・人口などの,自国や他国に配分することができる広い意味での力を指す.各国が力を自国と他国にどう配分するかを戦略とし,戦略によって自国の安全が保障されるかをゲーム理論を用いて考察する.

 ゲーム理論では,各エージェントが自分の利得を最大にするように1つの戦略を選択するゲームにおいて,すべてのエージェントが今の戦略に対して利得を大きくできる別の戦略を持たない状態をナッシュ均衡という.

先行研究

 グローバル化が進む現代において,各々の国が自国の安全を保ちつつ発展していくことは国にとって重要な課題である.近年では国家間の敵対関係・友好関係をグラフを用いて,関係性の変更や関係の強さを考える研究,また国の安全性を考える研究が多く行われている.

 文献[1]では,国際政治において敵対国や友好国に対し国の持つ人員や資源といった力を配分する国の動向を力配分ゲームとして定式化し,任意の敵対関係・友好関係と各国の力が与えられたゲームの中にナッシュ均衡が存在することが示されている.図1はある国に着目したとき,その国が国際政治において敵対国と友好国に対して力を配分する様子を示しており,配分する力の大きさが大きいほど矢印も大きい.[1]では敵対関係・友好関係の変更は考慮されていなかったが,[5][12]は[1]で定式化されたゲームにおいて敵対関係・友好関係の変更を考慮に入れている.これらの論文では敵対関係・友好関係の変更を考えた場合に,静的なゲームではすべての国が互いに敵対関係であるとき,それぞれの国はこの敵対関係を変更する誘引を持たないため敵対関係を解消または友好関係に変更するということはなく,敵対関係のみのグラフはナッシュ均衡になることが示されている.さらに,確率的に関係が変化する動的ゲームを考えたとき,ブラウワーの不動点定理から任意の動的ゲームに定常分布が存在することが示されている.文献[8]は[1]で定式化されたゲームにおいて,ナッシュ均衡における国の安全性が保障される条件を考えている.この論文ではナッシュ均衡における国の安全性に対する総力の大きさの条件が示されている.

Figure 2
図1 : 国際政治においてある国に着目したとき,敵対国と友好国に配分する力とその力の大きさ

 各国が力を配分する上で,それぞれの国に配分したい力の合計が国の持つ力の大きさを上回ってしまうことが考えられる.文献[13]ではエージェントに資源を配分したいが,資源の量がエージェントの要求より少ない場合にどうすれば公平に資源を配分できるかを考える破産論を用いた資源配分ルールが示されている.

 一方で,国の関係に重点を置く研究があり,[7]では国同士の関係の変更を行うゲームにおいて,ある2国間で相互に友好的であるとする友好関係と,相互に無関心であるとする無関係,一方の国のみが友好的であろうとする一方的な関係の3通りを考えている.国が関係によって得られる効用を定義し,それぞれの国はこの効用を最大化するように関係性を変更する場合にナッシュ均衡の特徴づけがされている.

 友好な国同士での国際的な国交として貿易がある.文献[2]では国の関係を定式化し,貿易の存在がない場合には国の関係は不安定となり戦争の確率が大きく上がるが,貿易がある場合には国の関係が安定となり戦争の確率が下がることが示されている.

 国家間での資源の配分ではなく,1国の中の政治において国民に資源を配分する問題も考えられる.文献[10]では国の与野党が交代する現代政治において,国の資源をどう配分することで国の効用を上げることができるのかが述べられている.

 文献[11]では,ネットワーク化された異なる国家間で資源が配分されることによる効用を定義し,各国家の効用の合計値である社会全体の効用を最大化する最適化問題を設定している.各国の資源配分の変化は人口を加味した微分方程式によって決まり,このゲームの均衡点における特徴付けを行い,均衡となる点が最適解となる条件が示されている.

 エージェントの提携関係を考える上で,どの相手とを組むと自分の効用が上がるのかを考える提携形ゲームが存在する.エージェントがある提携から抜け出そうとすることを逸脱というが,[3]では提携形ゲームにおいて,ある2つの提携の比較方法に関して逸脱にどちらの方が近いかという指標を用いて比較する方法を提案している.また,[4]では提携形ゲームを戦略形ゲームとして表し,提携に所属するエージェントすべての同意がない場合には提携が形成されないというルールの下で,提携形ゲームにおけるコア安定が戦略形ゲームにおけるナッシュ均衡に等しいということが示されている.

 文献[6]では提携形ゲームで,各エージェントから見て他のエージェントを「敵対者」「友人」「無関心」に分けて考える.提携を形成する選好のルールとして敵対者が少ない提携をより好ましいとする「敵対者拒否方式」と友人が多い提携をより好ましいとする「友人優先方式」を提案している.このとき「敵対者拒否方式」においてコア安定を満たす提携構造は常には存在せず,「友人優先方式」においてはコア安定を満たす提携構造が常に存在することが示されている.

 文献[9]では国際政治の変化を関係と提携の変化としてとらえ,国同士の関係の強さを関係の密度という観点から比較する方法が示されている.

研究目的

 文献[1]の研究では自国と敵対国と友好国に力を配分して自国の安全度を上げる静的なゲームを考えているが,安全度の大きさが戦略に影響しない問題設定であった.よって安全度の大きさを[1]とは別の関数で評価し,国がこの関数を最大化させた場合どう振る舞うのかを考察する.また[1]では考慮されていなかったナッシュ均衡の安定性を解析する.この2つを本研究の目的とする.

問題設定

 $n$個の国が存在し,国には1から順番に番号付けを行う.それぞれの国は資源の大きさに応じて力を持っており,これを総力とする.特定の2国間には敵対関係,または友好関係が与えられる.国をノード,敵対関係・友好関係をエッジと見ることで国際ネットワークとして見ることができる.図2は4国の場合の例である.国は総力の中から自国,敵対国,友好国に対して力配分を行い,どの国にどれだけの力を配分するのかを戦略とする.このとき国$i$が国$j$に対して配分する力を$x_{ij}$と表す.

 $\mathcal{A}_i$を国$i$にとっての敵対国の集合,$\mathcal{F}_i$を国$i$にとっての友好国の集合として,それぞれの国$i$はステップごとに効用関数 \begin{equation} J_i(x_i,x_{-i})=x_{ii}^2+\alpha\sum_{j\in\mathcal{F}_i}x_{ji}x_{ij}-\beta\sum_{j\in\mathcal{A}_i}\frac{x_{ji}^4}{x_{ij}^2}+\delta\Biggl(\frac{N_i}{p_i}\Biggl)^{N_i-2}\prod_{j\in\mathcal{A}_i\cup\mathcal{F}_i\cup\{i\}}x_{ij}\nonumber \end{equation} を最大化するように戦略を変更していく動的なゲームを考える.

Figure 2
図2 : 敵対関係・友好関係が与えられた国際ネットワークの例

研究結果

 友好関係のみのゲームにおいて国が取る戦略が「自国のみに力を配分する戦略」「ある友好国のみに力を配分する戦略」「すべての国に力を配分する戦略」の3つに限られることを示した.また,友好関係のみのゲームにおいて任意の国が関係を持つすべて国に対して力を配分する条件を示した.さらに,2国間の友好関係のゲームにおいて任意の初期戦略から,唯一存在するナッシュ均衡に収束する条件を示した.

参考文献

[1] Y. Li and A. S. Morse, “Game of power allocation on networks,” American Control Conference, pp. 5231-5236, 2017

[2] M. O. Jackson and S. Nei, “Networks of military alliances, wars, and international trade,” Proceedings of the National Academy of Sciences, vol. 112, no. 50, pp. 15277–15284, 2015.

[3] 小島健太郎, “ヘドニックゲームにおける提携の影響力分析,” 経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 年春季全国研究発表大会, pp. 322-325, 2013.

[4] 小島健太郎, “ヘドニックゲームの戦略形ゲーム表現と安定性概念の相互関係,” 経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 年秋季全国研究発表大会, pp. 333-336, 2013.

[5] Y. Li and A. S. Morse, “The countries' relation formation problem: Ⅰ and Ⅱ,” The International Federation of Automatic Control, pp. 14141-14146, 2017

[6] 大田一徳, 櫻井裕子, 横尾真, “ヘドニックゲームにおける新たな選好モデルの提案とコア安定性の解析,” The 31st Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, pp. 1-4, 2017.

[7] T. Hiller, “Alliance formation and coercion in networks,” FEEM Working Paper, 2011.

[8] Y. Li and A. S. Morse, “Countries’ survival in network international environments,” Annual Conference on decision and control, pp. 2912-2917, 2017.

[9] Z. Maoz, R. D. Kuperman, L. Terris, and I. Talmud, “International relations: A network approach,” New Directions for International Relations: Confronting the Method-of-Analysis Problem, Lexington Books, pp. 35-64, 2004.

[10] D. Acemogle, M. Golosov, and A. Tsyvinski, “Power fluctuations and political economy,” Journal of Economic Theory, pp. 1009-1041, 2011.

[11] C. Sun and X. Wang, “Evolutionary game theoretic approach for optimal resource allocation in multi-agent systems,” Chinese Automation Congress, pp. 5588-5592, 2017.

[12] Y. Li, F. Liu, and A. S. Morse, “A distributed, dynamical system view of finite, static games,” Annual Allerton Conference, pp. 732-738, 2017.

[13] D. M. Degefu and W. He, “Power allocation among socio-economic sectors with overlapping demands during power shortage: A bankruptcy approach,” Smart Energy Grid Engineering, pp. 6-10, 2016.

2018年 2月28日